SWITCHインタビュー達人達「村田諒太×萱野稔人」
村田諒太プロフィール・経歴
年齢:30歳
1986年奈良市生まれ、3兄弟の末っ子。気弱な少年だった。
中学2年生でケンカが強くなりたいという理由でボクシングを始めるものの、厳しい練習に耐えられず逃げ出す。
高校に進学する際に、今までの人生で一番面白かったものを考え抜いた結果、ボクシングに本格的に向き合うことになる。
ボクサーとしての経歴
高校2年生で選抜・総体・国体の3冠達成
大学時代には全日本選手権を制した
北京五輪を目指した際には、アジア大会・世界選手権で負け五輪出場を逃す。
これがきっかけで一度現役を引退
2012年
ロンドン五輪
日本人の体格では不可能と言われていたミドル級で金メダルを獲得。
日本に東京五輪以来の48年ぶりの金メダルをもたらした。
プロ転向後の戦績
現在、日本で2人目のミドル級世界王者を目指す。(1人目は竹原慎二さん)
戦績:4年で11連勝8KO無敗
IBF世界ランキング3位
WBO世界ランキング3位
WBA世界ランキング4位
WBC世界ランキング6位
とんでもない戦績ですね。
村田選手の人生の壁を乗り越える方法
ボクシング・人生の壁を「読書」よって乗り越えてきている。
主に心理学・哲学の本を読むことが多く、練習の方法に迷ったり、試合前に不安になった際に助けられるのだという。
「心の弱いところから始まっていると思うんです。どうコントロールしたらいいか。そういう時って、コンプレックスを持っていてもイイと思うけど、すごくマイナスになるときがある。人生において。そういうとき、1つの助けになるから続いている。」
プレッシャーに打ち勝つ方法
ロンドン五輪 準決勝 アボス・アトエフ選手との試合にて
アトエフ選手は世界選手権2連覇(2007.2009)している強豪選手
その1年前の2011年の世界選手権で、アトエフ選手と対戦した時のこと。
当時、日本人は外国人選手には勝てないと言われ、自身もそう思ってしまっていたとのこと。
ところが
村田
「いや、待てよ。2011年世界選手権2回戦の勝った負けたを気にしているのはここだけだと。何をちっちゃいところで。こんなもん50m離れたら『ボクシングやってんな』100m離れたら『誰がやってんの?』500m離れたら何やってるのかすら分からない。何をこん中だけでバカみたいに緊張してるんだ。試合だけに集中する。全部出し切ってダメだったらダメ。そう思って戦ったら勝ったんです」
「俺でも世界選手権2連覇した選手に勝てるんだってことを教えてくれた相手だった。」
「プレッシャーというのは、自分が作り出した幻影でしかない。それにやられてしまった。」
「他人はそんなに気にしていないですから。気にしていないのに勝手に、俺は44年ぶりのメダルを最悪でも取らなきゃいけない。あわよくば48年ぶりの金メダルを!なんて勝手に思い込んでいるだけで。それって自分だけじゃないですか。」
オリンピックはみんな期待してましたよ。
「その期待してたってのが違うと思うんですよ。期待されていなくて(金メダル)を取った。世間でその時、村田諒太を知っている人なんて全くいなかったのに勝手に自分でプレッシャーを作り上げていた。」
「今思えば、明らかにオーバーワークでしたし、努力だけ言ったらオリンピックに向けて一寸の後悔もないくらい絶対やり切ったってくらい。」
義務と考えない
「はじめ、僕は世界チャンピオンになることは義務だと思っていた。今はまったく思っていない。今はなりたいだけです。誰が義務付けたものでもないのに、それをアホみたいにプレッシャーに変えて自分を縮み上げさせてしまうことなんて、なんてネガティブな発想だろうって思って」
「まわりの観客の盛り上がりやジャッジはコントロールできない。コントロールできるのは自分のプレイだけ。自分のできることにベストを尽くして、あとの要素はマイナスであることが多いので」
コントロールできない他者の部分に目を向けてプレッシャーを感じるよりも自分でできることをしっかりやると決心していくことでプレッシャーに打ち勝っていけているようですね。
ネガティブ・怖がりな性格
これほどの実績をもっていても「これでイケる!」という確信はもっていないという村田選手。
また、世界ランク3位でありながら、チャンピオンとは死ぬほどの差があるとも語っています。
「怖がりなんでしょうね。『イケる!』と思ってつぶされた時のショックって、大きいんです。エクスキューズがきかない分、傷つく」
「ロンドン五輪で金メダルを取っただけで世間は僕に120点を与える。僕のこと、何も知らないだろうに『努力して日本のために金を獲った』と最高に評価されました。そうなると、後は減点されるしかないんです。それが怖かった。」
村田諒太の怖がり・ネガティブ思考を変えた父の言葉
プロデビュー戦前のこと
父と電話で話した際に「試合したくない」という流れになり泣いてしまったという。
そんな時、父から送られてきたメール
父
「前に、息子がジャンプする動画を送ってくれただろう?あれと同じじゃないか。子どもは誰かに見てもらうためにジャンプしているんじゃなくて、自分が成長しているのが嬉しくてジャンプしているだけだろう?」
このメールを読み村田選手は変われたという。
「村田諒太らしくKOで勝たなきゃ」などの気負いがなくなり、シンプルに自分のできることをやろうという思考に切り替わったそうです。
日誌にとらわれて、フレキシブルに考えられなくなるという理由で、練習日誌をつけることもやめた。
自信をつける方法
村田
「僕は練習だけでは自信はつかないと思っているんです。世界選手権で勝ったという事実がないと自信という確固たるものにはならない。自信になったのは結果が現れた時。結果がないのに自信があるというのは、逆にそのポジティブさを僕は学びたいです。」
結果を出さないと評価されない厳しい世界で活躍する選手ならではの言葉ですね。
【根拠のない自信】
僕は村田選手と逆で【根拠のない自信】も必要だと考えています。
何かに成功した体験や事実から自信につながるのは間違いないと思います。
その一方で、根拠なく自信満々で自分を信じて行動することでより良い結果が出せることもあると思います。
根拠などなくても自分を信じて堂々とやるからこそ、プレッシャーに打ち勝てたり、普段よりも高いパフォーマンスが出せた経験があります。
余計な力が入らないからかもしれませんが。
根拠も実績もないのに自信満々というと、スラムダンクの桜木花道が有名ですね。
「自分なんて・・・」と悲観的にネガティブにとらえているくらいなら、根拠なく自信満々で物事に取り組んだ方がパフォーマンスが高まることも多いです。
それぞれの性格に合わせたパフォーマンスUPの方法を選べることが大事ですね。
村田諒太のボクシング論
「スポーツ科学だったら下半身から動かして全部の力を伝えてとか言うじゃないですか。でも、そんなことをやっていると、肝心の殴るいう動作が鈍くなると思う。」
「初めて殴ることを教える時は、殴るという感覚を覚えるだけでいいと思う。」
あまり頭で考えすぎないことも大事だということですね。
村田諒太の集中力
「『集中する』というと相手の顔を凝視するイメージですが、それだと力むだけで死角も生まれる。ゆっくり呼吸して、リラックスした状態で相手全体を観た方がかえって素早く反応できるんです。」
「世界選手権は獲れるのに五輪で勝てない。決定的なチャンスでゴールの枠すら、とらえられない。そんな選手は『ここで集中だ!』『絶対決める!』と意識するあまりパフォーマンスが発揮できていないんだと思います」
そんな村田選手は過去に集中できたのは最近の2試合だけだと振り返る。
ラスベガスでのタドニッパ戦では
相手のパンチを受けながら「ややこしいヤツやなぁ」と思いながらなんとなくパンパン・トーンとやったら相手がマットに沈んでいたという。
妙に冷静で、自分と対話しながら試合が出来た。
いわゆるゾーンと言われるものでしょう。
感想
プロのアスリートの思考法としては自分に「自分は強い」と暗示をかけたり、あえてプレッシャーをかけて実力を引き出すタイプの選手が多いと感じます。
同じボクシングの亀田選手やK-1の魔裟斗選手、水泳の北島康介選手が印象的でした。
そんななか、村田選手は圧倒的戦績をもってしても案外、現状を冷静に見つめて向き合っている選手と言えそうです。
ミドル級史上2人目の世界王者誕生、プロでも「金」に今から胸が高鳴ります。